そんな方も多いでしょう。年齢とともに、夜中にトイレに行くために目が覚めることが増えます。60歳以上では7割の方が一度はトイレのために目が覚めることがあると言われています。何度も目が覚めてしまうと、睡眠の質が低下し、不眠になることもしばしばです。そんなときにも不眠の認知行動療法CBT-Iは効くのでしょうか。まだ数は少ないですが、ランダム化比較試験で、不眠症状だけでなく、夜間頻尿にも効果が示唆されています。
夜間頻尿の原因
夜間頻尿はなぜ起きるのでしょうか。原因としていくつか考えられます。
尿量の増加
当然、水分のとりすぎは夜間頻尿の原因になります。飲み会のあとに夜間頻尿になる方は多いでしょう。その他にも、糖尿病や心不全など、体液量が増えがちな内科疾患も夜間頻尿に繋がります。また、利尿剤の内服などで尿量が増えることも夜間頻尿の原因になります。
膀胱容量の減少
膀胱が貯めることができる尿量が減少することも、夜間頻尿の原因になります。妊娠中は子宮が大きくなり膀胱を圧排するため、頻尿になります。過活動膀胱や前立腺肥大でも、膀胱が十分に貯めることができなくなり、頻尿に繋がります。
睡眠障害の存在
不眠症などの睡眠が障害で中途覚醒をした際に、とりあえずトイレに行くという方もいます。おしっこのために目が覚めたわけでなくとも、結果的に、何度もおしっこのために目が覚めたように見えるということもあります。
夜間頻尿による不眠の治療
原疾患の精査・治療
夜間頻尿のある方の不眠の治療としてまず推奨されるのは、原疾患の精査と治療です。内科疾患の場合は生活改善や薬物療法が主体となりますが、場合によっては骨盤底筋トレーニングなどの非薬物療法でも頻尿が改善することが期待できます。
CBT-I:夜間頻尿による不眠にも有効
夜間頻尿による不眠に着目した臨床試験は少ないですが、不眠症状だけでなく夜間頻尿症状の改善も示唆するものがあります。高齢者に対する簡易型CBT-I(BBT-I)の効果を検討した臨床試験では、夜間頻尿症状がある方でもない方と同様に不眠症状が改善されました。Tyagi S, et al. 2014 2024年8月時点でまだ本論文は見つかりませんでしたが、同じ研究グループによる追試でも有効性が示唆されています。Tyagi S, et al. 2023
不眠症状が改善されるのはわかりやすいですが、夜間頻尿まで改善するのはなぜでしょうか。もしかしたら、夜間頻尿と思っていたものの少なくとも一部は、中途覚醒に伴って決まりごとのようにトイレに行っていただけなのかもしれません。臥床時間を短くした事自体でも、尿がたまる時間が短くなって排尿の必要性が減ったのかもしれません。
「随伴性不眠」でもCBT-I
不眠症にはかつて、随伴性(他の疾患や症状に伴う)と原発性(他に原因となる疾患や症状がない)に区別されていました。2013年に発表されたDSM-5という診断基準からその区別は撤廃されました。区別がしばしば難しいこと、不眠と他の疾患は相互に関連すること、他の疾患があっても不眠治療が望ましいこと、などが理由です。 身体疾患や精神疾患を伴う不眠症に対しても、CBT-Iが有効であることが繰り返し示されています。
CBT-Iの普及を阻害する要因を探った研究で、「随伴性不眠の場合は原因疾患の精査・治療が優先される」と考えることがCBT-Iの普及を阻害している可能性が示唆されました。原因疾患の精査・治療もするとして、それと並行してCBT-Iを提供することでより早くから不眠の悩みを解決できるのではないかと思っています。
簡易型のCBT-Iのワークブックとしては、下記が参考になるかと思います。
【参考文献】
Tyagi S, Resnick NM, Perera S, Monk TH, Hall MH, Buysse DJ. Behavioral treatment of insomnia: also effective for nocturia. J Am Geriatr Soc. 2014;62(1):54-60. doi:10.1111/jgs.12609
Tyagi S, Clarkson B, Perera S, Newell K, Resnick N, BuysseD. 0344 Behavioral Treatment of Insomnia with Concurrent Nocturia, Sleep. 2023;46(Supp1):A152–A153. https://doi.org/10.1093/sleep/zsad077.0344
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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