「CBT-Iはやりたいと思ってくる人向け」だけではない

不眠の認知行動療法 (CBT-I) の有効な要素に、睡眠制限刺激統制があります。どちらも、臥床時間を短くするということか根幹にあります。眠れないときはとにかく横になって寝ようとしてきた方には特に大変なことが多いです。ときに反発されることもあります。「CBT-Iはやる気がある人向け」と考える臨床家がいるのもわかります。(エクスポージャー療法を勧めるのを躊躇する人が多いのと似ていますね。)

私自身は、CBT-Iを聞いたこともない患者さんに提供してきました。(そもそも臨床家でさえ知らないのに、患者さんがCBT-Iを知ってることは皆無です。)

眠れないが主訴で受診した方だけではありません。電気けいれん療法を希望して入院した方。夜間緊急で医療保護入院してきた方。外来で泣き崩れた方。誰一人CBT-Iを自ら希望してやってきたわけではありません。CBT-Iのお陰で不眠症状だけでなく、抑うつ症状など他の症状も改善しました。こういった臨床経験のおかげで、CBT-Iに惹かれるようになりました。(もちろん、うまくいかなかった方もたくさんいますが)

不眠で苦しむ方のココロを掴むコツとして、①不眠の辛さに共感する、②臥床時間を短くすることへの抵抗に共感する、という点があると感じています。

不眠の辛さに共感する

忙しい外来診察の時間ではフォーマルに睡眠日誌をつけてもらうことが難しいです。そこで、口頭で24時間の生活リズムを聞くようにしています。多くのCBT-Iのプロトコルの初回は睡眠日誌の説明です。しかし、要素ネットワークメタアナリシスでは睡眠日誌単体の有効性が示されませんでした。Furukawa Y, et al. 2024 なので、睡眠日誌自体は簡略化してより有効な刺激統制や睡眠制限を早く導入するほうが良いと考えています。

24時間の生活リズムを聞く中で、入眠困難や中途覚醒の話になると思います。そこで意識的に、「それは辛いですよね」と言うようにしています。不眠で悩む方の多くは、寝られないことを相談しても「寝たらいいじゃん」などと言われたことがあります。辛さを理解してもらえないと悩んでいることが多いです。布団に入って寝られずに何時間も過ごすという話になったら「横になっても眠れないと、焦ってなんとか寝なければと思って、それで余計寝られなくなったりしますよね」などと、具体的に患者さんが経験しているであろうことをいうと、

この人ならわかってくれるかもしれないと信頼してもらえます。ここで話を聞いてみようと思ってもらえるかがとても重要で、それがうまくいっていないのに、睡眠制限や刺激統制を導入しようとしても全くうまく行きません。

臥床時間を短くすることへの抵抗に共感する

まずは何より、きちんと話を聞いてもらえる治療関係を築くことが大事です。あまりうまくできていないと感じても時間の関係で次に進まなければいけない時、もしくは、育児や介護やペットなど家庭の環境でなかなか臥床時間をコントロールするのが難しそうな時などは、「すぐにはできないと感じるかもしれないけれど、まずは建前というか、原則を説明させてください。その後に、どんなことであればできそうであれば相談しましょう」などと前置きをして睡眠制限や刺激統制の説明をします。(どちらを優先するかは、入眠困難と中途覚醒のどちらがより問題かによって判断します)

やってみる気が十分なればそれでよいですが、いまいちかもしれないと感じた場合、「騙されたつもりで1−2週間やってみてください。はじめ1−2週間は辛くて眠くなるという方もいますが、多くの人はその後改善します。」などと声がけします。やってみたけど辛いという人には、はじめ辛いと感じる人ほどその後改善する傾向があるKyle et al. 2011 という話をします。

一人でも多くの患者さんにCBT-Iをうまく導入できますように。

PS うつ病に関するRCTですが、薬物療法を希望するか心理療法を希望するかが治療反応性に影響するとは示されていません。Dunlop BW, et al. 2017

Dunlop BW, Kelley ME, Aponte-Rivera V, et al. Effects of Patient Preferences on Outcomes in the Predictors of Remission in Depression to Individual and Combined Treatments (PReDICT) Study. Am J Psychiatry. 2017;174(6):546-556. doi:10.1176/appi.ajp.2016.16050517


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