- なかなか寝付けない
- 途中で目が覚めてしまう
- 睡眠衛生を守っても眠れない
不眠に困って対処法を検索して試してみてもイマイチ。それもそのはず、リラックス法や睡眠衛生に関する情報が見つかるばかりで、不眠症治療として世界的に推奨される不眠の認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia, CBT-I) の情報はなかなか見つからないのが現状です。
私は初期研修医や精神科医として不眠に苦しむ方を多く診てきました。薬以外の治療法も模索し、世界的に不眠症治療の第一選択としてCBT-Iが推奨されていることを知りました。実際に臨床でCBT-Iを活用してみるとすぐにその効果が実感できました。
さらに効果的かつ効率的に提供するために、CBT-Iの大家のMichael Perlis博士らとともに、CBT-Iのどの要素が有効かを検証し、論文をJAMA Psychiatryという世界的な雑誌に発表しました。さらに、不眠症治療を始める時にCBT-Iから始めることが薬物療法から始めるよりも有効であることも明らかにしました。
この記事では、CBT-Iのどのスキルが特に有効か紹介します。
不眠の認知行動療法とは
不眠の認知行動療法 (CBT-I) は行動の工夫や物事の受け止め方の工夫で不眠症状を改善させます。具体的にはどのようなことをしたらよいのでしょうか。私達は3万人を超えるこれまでのCBT-Iの臨床研究データを解析し、刺激統制・睡眠制限・認知再構成、かつ、対面提供が特に有効ということを明らかにしました。(Furukawa Y, et al. 2024)
睡眠衛生指導が推奨されることもありますが、単体での効果は証明されていませんし、米国睡眠学会のガイドラインでは非推奨になっています。
不眠の行動療法 (BBT-I)
CBT-Iの普及を模索する中で、簡便な行動療法の技法に特化した、Brief Behavioral Therapy for Insomnia (BBT-I) が開発されました。BBT-IはCBT-Iから認知療法の要素を抜いた簡便な手法で、有効性が繰り返し示されています。(睡眠制限+刺激統制で睡眠スケジュール法と呼ばれることもあります。)睡眠制限法は単体でも有効性が示されています。
夜にお手洗いで起きる方も多いと思いますが、そういう方の睡眠だけでなく頻尿症状にも有効性が示唆されています。Tyagi S, et al. 2014
寝付けなくてつらい時は一度布団から出よう:刺激統制
刺激統制は、睡眠と寝床を関連付けることで、寝床に入ったら眠れるようにします。入眠困難が目立つ方に特におすすめです。詳しくはこちら。
1−2時間毎に目が覚めてつらい時は横になる時間を短くしよう:睡眠制限
睡眠制限は、横になる時間を短くすることで、深く眠れるようにします。中途覚醒が目立つ方に特におすすめです。詳しくはこちら。
不眠の認知療法
認知再構成
認知再構成は、睡眠に関する役に立たない思い込みを見つけ、緩和します。
必須でない要素
睡眠衛生指導、睡眠日誌、リラクゼーションは、CBT-Iに組み入れられていることが多いですが、必須ではありません。
CBT-Iを受けるには
CBT-Iを自分で学ぶ
睡眠薬と比較してもより有効な不眠の認知行動療法ですが、残念ながら受けられる場所が少ないのが現状です(2024年8月現在)。ワークブックを用いて自分で学ぶのも一案です。大規模な臨床試験で有効性が実証されたアプリもありますが、日本語圏ではまだ十分普及していません。
CBT-Iを受ける
上記のセルフヘルプ型のCBT-Iでも有効です。しかし、CBT-Iの有効な要素を検証した我々の研究では、セラピストからの対面提供がより有効であることが示されました。Furukawa Y, et al. 2024 CBT-Iをセラピストから直接受けることができる場合は検討してみてください。
CBT-Iで十分良くならない時は
CBT-Iが有効とは言え、良くなったと実感できるのは約8割、不眠がなくなる人は約4割です。逆に言うと、残念ながら、CBT-Iでも十分に良くならない方も少なからずいます。必要に応じて、薬物療法も含めて専門家に相談してみるのが良いでしょう。
[臨床家向け] 臨床現場別CBT-I
CBT-Iの研修
国内でCBT-Iの研修が受けられる機会はまだあまり多くありません。まずは書籍からというのが現実的でしょう。国立精神・神経医療研究センターの研修が行われることがあるので、サイトを定期的に確認しても良いかもしれません。
外来でのCBT-I
病棟でのCBT-I
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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