◆不眠症治療の第一選択とされる不眠症の認知行動療法は、複数の手法から成り、そのうちのどの手法が有効であるかは不明でしたが、要素ネットワークメタアナリシスを用いることで、どの手法が有効であるかを明らかにしました。
◆要素ネットワークメタアナリシスを不眠症の認知行動療法に適応した世界で初めての研究で、241の臨床試験(31,452名の参加者)が組み入れられた、本テーマに関する最大のメタアナリシスとなりました。
◆睡眠制限法、刺激統制法、認知再構成、マインドフルネスが睡眠を改善する一方で、睡眠衛生指導だけでは無効であり、リラクゼーションは逆効果の可能性があることが示唆され、本研究が、より効果的かつ効率的なプログラムの開発に繋がることが期待されます。
研究の背景
不眠症は人口の4~22%に見られ、心のみならず体もむしばみます。入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒により睡眠の連続性が阻害され、大きな苦痛や生活への支障をきたす障害です。生活に悪影響を及ぼし、生産低下につながるだけでなく、数々の身体疾患や精神疾患のリスクを上げることが指摘されています。不眠症の認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia, CBT-I)はその有効性と安全性から、不眠症治療の第一選択とされています。しかしながら、CBT-Iは複数の要素の組み合わせから成り、どの要素が有効かは不明でした。そこで研究グループは、CBT-Iの各要素の有効性について次のような方法で推定しました。
研究内容
はじめに系統的レビューを行い、公表されている臨床試験に関する論文の中から、成人(18歳以上)の不眠症に対する治療法としてCBT-Iと別の手法あるいは対照群とを比較したランダム化比較試験の論文を収集し、241のランダム化比較試験(31,452名の参加者)を抽出しました。包括的な系統的レビューを行うことで、先行研究の倍のランダム化比較試験を見つけることができました。次に要素ネットワークメタアナリシスを用い、これら241のランダム化比較試験を解析しました。要素ネットワークメタアナリシスをCBT-Iに適用することで、CBT-Iの各要素の有効性を明らかにしました。
これまで単独での有効性が示唆されていた睡眠制限法(横になる時間を短くすることで深く眠れるようにする)と刺激統制法(寝床と睡眠の関連付けを強くすることで眠れるようにする)に加え、認知再構成(不眠に関する有害な思い込みを和らげる)やマインドフルネス(不眠への不安を受け入れる)、対面提供(セラピストが対面で治療する提供方法)の有効性が示されました。一方、睡眠環境を調整する睡眠衛生指導や、筋肉を意図的に弛緩させるなどのリラクゼーション法の有効性は示されませんでした。(図1)
図1:不眠症に対する認知行動療法の有効な要素を解明
今後の展望
本研究の結果を踏まえ、有効な要素を含み、有効でないものや逆効果なものを省略した、効果的かつ効率的なCBT-Iプログラムの開発が期待されます。簡便なプログラムを開発することで、治療を受ける方の負担が減るだけでなく、治療を提供できる人材の育成にも貢献することが期待されます。
Furukawa Y, Sakata M, Yamamoto R, et al. Components and Delivery Formats of Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia in Adults: A Systematic Review and Component Network Meta-Analysis. JAMA Psychiatry. 2024;81(4):357-365. https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2814164
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
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