要素ネットワークメタアナリシス (component network meta-analysis, cNMA) は複数の要素からなる介入の各要素の効果を推定できる、NMAの拡張版です。不眠の認知行動療法CBT-Iの各要素の効果を検討した論文で使用しました。比較的まだ新しく、統計的な側面はもちろんのこと、特に統計以外の注意点については、英語も含めて解説記事が希少なので少し経験をシェアします。(統計面については私の理解は必要最低限に留まるのでここでは割愛させていただきます)
統計家のサポートが必須
frequentist cNMAの解析自体はRのnetmetaでできます。しかし、解析の妥当性の確認や、エラー対応、特に査読の対応などは、専門の統計家のサポートが必須だと思います。私達の論文でも、査読の際に求められた統計面での対応は、統計家の先生なしでは不可能でした。
事前にComponentを定義する
cNMAで効果を明らかにしたい各要素について事前に定義して下記のように表にまとめましょう。この表はプロトコルにも本論文にも入れましょう。この分類が妥当であると査読のときに主張できるようにするためにも、当該分野のエキスパートの助けも必須です。
評価者間の一致率を確認する
どの要素が含まれているかの判断もペアで行いましょう。本論文でも、一致率を報告し、できるかぎり正確に行うよう努力したことをアピールします。
Interrater reliability of judgments for components ranged from moderate to almost perfect, with κ ranging from 0.43 to 0.85 and percentage agreement from 73.1% to 98.8% (eTable 3 in Supplement 1).
NMAも実施する
ペアで行っていても、どうしてもデータ抽出時のエラーがでてきます。メタアナリシスをやったことがある人はわかると思います。要素ネットワークメタアナリシスは組入件数が膨大になるとデータセットも解析内容も人間の目にはもはやブラックボックスになってしまい、エラーに気がつけなくなります。
極力、cNMAの前に認知行動療法、行動療法、認知療法、などのパッケージレベルでのNMAを行いましょう。パッケージの定義もあらかじめ決めておき、プロトコルに入れておきましょう。
私達の研究では、パッケージレベルで認知行動療法>行動療法≒認知療法>睡眠衛生ということが明らかになりました。このことで、読者に「行動療法的な要素、認知療法的な要素それぞれで何かが有効なのかな?」と考えさせることができ、cNMAの結果をスムースに受け入れてもらえたのではないかと思います。
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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