なかなか寝付けない(入眠困難)、何度も起きてしまう(中途覚醒)、早く起きてしまって眠れない(早朝覚醒)などで苦しんだ夜の翌日は、どのように過ごしたら良いでしょうか。不眠症治療で睡眠薬よりも効果が高いとされる不眠症の認知行動療法CBT-Iに基づく対処法を解説します。
睡眠不足を補わおうとしない
意外かもしれませんが、一晩眠れなくても睡眠不足を補うことはしない方が良いとされます。いつもより遅くまで寝たり、昼寝をしたりすると、リズムが崩れてしまいます。起きる時間は一定にしましょう。夜も無理に早くから寝ようとしないようにしましょう。(刺激統制と呼ばれる大事なテクニックです)
今晩無理なら、明日の晩に
眠れない晩があっても、眠さを貯めておいて、翌日以降に眠れたら大丈夫です。一晩眠れないと生活が破綻してしまうと思い詰めてしまうと、余計に眠れなくなってしまいます。気楽にいきましょう。
「睡眠に対する非機能的な信念」に注意しよう
不眠症の方は、睡眠に対して非機能的な(=役に立たず、むしろ逆効果な)信念を抱きがちであることが知られています。Morin CM, et al. 2007 ネット検索で出てくるアドバイスの中には、これらの信念を強化してしまうものも散見されます。要注意です。
「日中問題なく過ごすには8時間睡眠が必要」
20歳を超えたら7時間眠れたら十分です。中にはロングスリーパーという方もいますが、眠れなくて辛いというときは、得てして、実際に眠れる時間よりも長く寝なければいけないと自分を追い詰めがちです。8時間眠れたらラッキー、でも6−7時間寝られたらまずは十分です。
「よく眠れなかった翌日は昼寝などで睡眠を補う必要がある」
睡眠リズムを崩してしまうおそれがあります。昼寝するとしても、15時までの30分までにしましょう。
「よく眠れないと次の日の活動が台無しになる」
このように考えると余計に緊張して眠れなくなるものです。眠れなかったら眠れなかったなりになんとかなるものです。
不眠がどれくらい続いたら病院に行った方が良い?
眠れない夜がたまにあること自体は自然なことです。不眠症の定義は、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒が1週間に3晩以上、3ヶ月以上あり、著しい苦痛や日常生活への支障がある、他に眠れない原因がない、です。とはいえ、眠れないのは本当につらいことで、3ヶ月も待つ必要はないかと思います。2−3週間眠れなくてとてもつらい、というのであれば一度相談してみてもよいでしょう。
不眠症治療は何科に行ったら良い?
不眠症に一番有効なのは薬を使わない不眠の認知行動療法CBT−Iですが、残念ながら、これができる医療機関は限られています。CBT-Iを希望される場合は、ウェブサイトでその医療機関がCBT-Iを提供しているか確認しましょう。
睡眠薬を希望する場合、精神科・心療内科・内科などが候補になります。かかりつけがある場合はまずはそちらで相談していただくのが良いでしょう。依存性がないとされる薬もあります。まずは依存性がないとされるものから試したい場合はそのように伝えるとよいでしょう。
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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