「眠れない」からといって、不眠症とは限りません。睡眠時間を気にする方も多いですが、実は、不眠症の診断基準に睡眠時間は入っていません。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)-5の診断基準を紹介します。
DSM-5
- A. 入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒のいずれかを伴う睡眠の質や量に関する不満
- B. 臨床的に著明な苦痛、または、日中の機能障害を伴う
- C. 週3回以上の睡眠困難
- D. 3ヶ月以上の睡眠困難
- E-H. 睡眠困難が周囲の環境、他の睡眠障害、身体疾患、精神疾患、薬物などで十分に説明できない
不眠症と判断するかは、眠れないというだけでなく、日中の生活に支障をきたしているかどうかが大きな分かれ目です。
A基準として以前は「熟眠障害」が入っていましたが、これがなくなりました。熟眠障害が不眠症以外の理由(例えば慢性疲労,疼痛,閉塞性睡眠時無呼吸等)で生じやすいためらしいです。
原発性不眠症と二次性不眠症(身体疾患や精神疾患などに伴う不眠症)の区別もなくなりました。そもそも区別が難しいし、本質的にはどちらも同じなのかもしれないです。どちらにもCBT-Iが有効です。
週2回までの睡眠困難であれば不眠症には当たらないことになります。この境界の設定が正しいかはさておき、眠れない日がたまにあること自体は異常ではないことはもっと強調されて良いように思います。
驚きかもしれないのは、3ヶ月以上経たないと不眠症(より正確には慢性不眠障害 chronic insomnia disorder)には当たらないということです。慢性不眠症の方は年単位で不眠症状に苦しんでおり、この診断基準に該当する人はたくさんいます。しかし、3ヶ月未満でも、眠れないのは結構辛いですよね。急性不眠症にもCBT-Iは有効なので、CBT-Iを提供するという基本方針は変わりません。
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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