不眠の認知行動療法ははじめからやる気がある人でなくても効果があります。とはいえ、押しつけになるとうまくいきません。うまく導入できなかった経験も多々あります。いくつかを共有します。
ベンゾ減薬を急ぎすぎる
CBT-I導入以前の話ですが、ベンゾジアゼピン系薬剤を多剤・多量に内服している外来患者さんの引き継ぎ初日に、減らしていこうとして、転医されたことがあります。若気の至りだったなと思います。今では、色んな事情でそのような処方になったのだろうと思います。仮に本当にあまり良くない処方だったとしても、患者さんがその処方を長年していた医師のことを信頼していた場合、その信頼関係や長年の通院期間に泥を塗る形になってしまいます。
まずは治療関係を構築し、現在の処方について本人がどう思っているかを確認してからにすべきだったなと思います。「今すぐには難しくても、いずれ減らしていけるといいんですけどねぇ」などとつぶやいておくだけというのもありかなと思います。
本人の事情を十分に理解しないで進める
短い外来の時間でとなると、睡眠制限か刺激統制のどちらかを中心に簡単に紹介するだけ、となることもあります。それで十分改善することも多いですが、後日「先生に言われたことは自分にはできません」と言われることもあります。
よくよく話を聞くと、本来であれば最初にきちんと確認しておくべきであったことがわかることがあります。育児・介護・ペット・隣近所の問題などで睡眠をどうしても中断される、狭い部屋に同居人と寝ており起き上がることが憚られる、などです。そのような場合は改めて事情を確認して、たしかに簡単にはできなさそうであることを理解した上で、その中でできるかぎりCBT-Iの原理を活用する方法をともに探るようにしています。
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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