睡眠薬に関する各種ガイドライン、ネットワークメタアナリシスなどのエビデンスの推奨をまとめました。
不眠症ガイドライン・エビデンス比較表
不眠症治療の第一選択は世界的に不眠の認知行動療法 (CBT-I)です。薬物療法はCBT-Iの効果が不十分であった時、または提供できない時に、リスクベネフィットを勘案して検討される治療法です。日本で第一選択とされる睡眠衛生指導は単体で効果が示されておらず、CBT-Iに明確に効果が劣っていることが示されています。米国睡眠学会は睡眠衛生指導を単体で使用することは非推奨としています。
複数の要素からなるCBT-Iですが、中でも睡眠制限と刺激統制という手法が有効であることが要素ネットワークメタアナリシスで示されています。
不眠の認知行動療法について下記の記事で詳しく解説しています。
不眠症薬物療法ガイドライン・エビデンス比較表
米国睡眠学会不眠症薬物療法のガイドライン2017は個別の薬剤名が明記されています。一方、欧州ガイドライン2023ではカテゴリーレベルでの推奨です。(ただし、オレキシン受容体作動薬は唯一欧州で認可されているdaridorexantと記載されています。上記の表ではカテゴリーレベルでの推奨に変換しました。)
緑が濃いほど強く推奨されています。(米国睡眠学会ガイドラインでは強い推奨が濃い緑、弱い推奨が中等度の緑。欧州ガイドラインでは推奨レベルAが濃い緑、推奨レベルBが中等度の緑。ネットワークメタアナリシスの結果の色分けは元論文の図の目視によるものでやや恣意的です)
2024年時点ではオレキシン受容体拮抗薬(レンボレキサント=デエビゴ®、スボレキサント=ベルソムラ®)が第一選択となるでしょう。非ベンゾジアゼピン系(エスゾピクロン=ルネスタ®)も選択肢になるかもしれません。ゾルピデム=マイスリー®やベンゾジアゼピン系(トリアゾラム=ハルシオン®など)は依存性への危惧から最近は避けられる傾向にあります。
ただし、すでに長年処方されている場合は減量には慎重になる必要があります。
参考文献
睡眠薬の適正な使⽤用と休薬のための診療療ガイドライン2013
De Crescenzo F, D’Alò GL, Ostinelli EG, et al. Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2022;400(10347):170-184. doi:10.1016/S0140-6736(22)00878-9 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35843245/
Furukawa Y, Sakata M, Furukawa TA, Efthimiou O, Perlis M. Initial treatment choices for long-term remission of chronic insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78(11):646-653. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39188094
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
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