不眠症の治し方 完全ガイド|不眠の認知行動療法(CBT-I)を精神科医が解説
「もう何年も眠れていない」「睡眠薬を飲み続けているけれど、これでいいのだろうか」。そう感じてこのページにたどり着いた方に向けて、不眠症の治し方を最初から順番にまとめました。
書いているのは、不眠症を専門とする精神科医です。ここに書いてあることは、私の個人的な経験談だけではなく、世界中の臨床試験を集めて検証された結果にもとづいています。
目次
不眠の認知行動療法(CBT-I)とは
不眠が続くとき、多くの方は「眠れないから、どうにかして眠ろう」と工夫を重ねます。早めに布団に入る、休日に寝だめをする、寝酒をする、眠くなるまで横になって待つ——。
ところが、こうした工夫のほとんどは、短い目で見れば少し楽になっても、長い目で見ると不眠を固定させてしまいます。不眠が長引く大きな理由のひとつは、眠れないことそのものではなく、眠ろうとして積み重ねた対処が裏目に出ていることです。
CBT-I は、その裏目に出ている部分を一つずつほどいていく方法です。眠るための努力を増やすのではなく、むしろ減らします。
睡眠薬とどちらが良いのか
米国内科学会(ACP)は2016年のガイドラインで、慢性不眠症のある成人にはまず全員に CBT-I を行うことを「強い推奨」としています[1]。欧州の不眠症ガイドライン2023年改訂版も、年齢や併存する病気にかかわらず CBT-I を第一選択とし、最も強くすすめる治療として位置づけています[2]。米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインでも、複数の要素を組み合わせた CBT-I が唯一の「強い推奨」になっています[3]。
睡眠薬が効かないという意味ではありません。ただし、薬は飲んでいる間だけ効くのに対して、CBT-I は治療が終わったあとも効果が続きやすいとされています。だから「まず CBT-I、必要なら薬を足す」という順番になっています。
「なぜ薬より先なのか」を研究の中身から知りたい方は、不眠治療は CBT-I から。薬より有効という研究の紹介をご覧ください。
そもそも自分は不眠症なのか
「眠れない日がある」ことと「不眠症」は違います。おおまかには、眠る環境も時間も十分にあるのに眠れない状態が週3日以上、3か月以上続き、そのせいで日中に困っているとき、慢性不眠症と呼びます[2]。
一方、日中に強い眠気があって困っている場合は、不眠症だけでなく、睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群などの別の睡眠の病気が隠れていないかもあわせて考えます。ご自身がどちらに当てはまるかを整理したい方は、不眠症とは? ただの寝不足との違いを先に読むとわかりやすいと思います。診断基準そのものの詳しい線引きは不眠症の診断基準の記事にまとめました。
「何時間眠れば正常なのか」という不安が強い方は、この記事の手順4(眠りについての考えを見直す)が特に役に立つはずです。睡眠時間の数字そのものについては、「8時間睡眠」は必要? 睡眠時間の正解でも詳しく扱っています。
どのくらい効くのか
私たちは、世界中で行われた241件の臨床試験(合計31,452人)のデータを集めて解析しました[4]。
不眠についての生活指導を対面で受けただけの方では、不眠が気にならない程度まで改善したのが約14%でした。一方、効果の大きい要素(眠りについての考えの見直し・マインドフルネスなどの技法・臥床時間制限法〔ベッドにいる時間を短くする方法〕・刺激統制法)を対面で組み合わせて受けた方では、約47%が同じ水準まで改善する計算になりました。研究では「満足できる状態に達したかどうか」で判定しています。
心理療法の効果としてかなり大きい部類に入る数字です。
ただし、この数字は専門家が対面で行った場合のものです。この解析では専門家が対面で関わる形式が最も効果的でした[4]。ご自身だけで進める場合の効果は、これより小さくなると考えられます。うまく進まないときは、後半の「CBT-I をどこで受けられるか」をご覧ください。
効果が出るまでの目安は4〜8週間です。最初はむしろ日中の眠気が強くなることもあり、そこで中断してしまう方が少なくありません。変化は1〜2週目以降に徐々に出てくることが多いので、最初の1〜2週で見切りをつけずに続けてみてください。
ほかの病気や事情があっても効きます
「自分の不眠は特殊だから効かないのでは」と考える必要はありません。夜間頻尿でトイレに起きてしまう方、慢性的な痛みで眠れない方、更年期の不眠、うつ病に伴う不眠のいずれでも、CBT-I の有効性が確かめられています。欧州のガイドラインも、併存する病気があっても CBT-I を第一選択としています[2]。
治し方の全体像:4つの手順
CBT-I は、次の順番で進めます。ここから先は、それぞれを患者さんご自身が実行できる形で説明します。
- 睡眠日誌をつける(1〜2週間。今の状態を測る)
- 刺激統制法(ベッドと眠りを結び直す)
- 臥床時間制限法(ベッドにいる時間を短くして眠りを濃くする)
- 認知再構成(眠りについての考えを見直す)
とくに、2と3が効果的です。
手順1|睡眠日誌をつける
睡眠日誌とは、毎朝、前の晩の眠りを思い出して書きとめる記録のことです。研究では、記録する項目をそろえた「Consensus Sleep Diary」という標準の書式が使われています[5]。まず1〜2週間つけて今の状態をつかみ、そのあと手順3を進めているあいだも、つけ続けてください。手順3では毎週この日誌から数字を出して、ベッドにいる時間を調整していきます。
書く内容
ノートに次の欄を作って、毎朝1行ずつ書き足していきます。
| 日付 | ベッドに入った時刻 | 寝つくまでにかかった時間 | 夜中に目が覚めていた合計時間 | ベッドから出た時刻 | 日中のつらさ |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/1 | 23:00 | 1時間 | 1時間30分 | 6:30 | 4 |
| 7/2 |
「日中のつらさ」は5段階で構いません(1=まったく困らなかった、5=とてもつらかった)。時間はすべて、だいたいで十分です。
正確に測ろうとして時計を確認すると、「あと3時間しかない」と計算が始まり、かえって目が冴えます。翌朝の記憶で書くくらいがちょうどよく、治療にはそれで十分です。睡眠計測アプリやウェアラブル端末の数字も、気になりすぎるようなら一度外してください。
2つの数字を計算する
1週間ぶんたまったら、次の2つを計算します。
① ベッドにいた時間 = ベッドから出た時刻 − ベッドに入った時刻
例)23時00分にベッドに入り、翌朝6時30分にベッドから出た → 7時間30分
② 実際に眠れた時間 = ①ベッドにいた時間 − 寝つくまでにかかった時間 − 夜中に目が覚めていた合計時間
例)7時間30分 − 1時間 − 1時間30分 → 5時間00分
これを7日分出して、7で割った平均を使います。1日だけ極端な日があっても、平均で見れば問題ありません。
さらに、この2つから睡眠効率を出します。
睡眠効率(%) = ②実際に眠れた時間 ÷ ①ベッドにいた時間 × 100
例)5時間00分 ÷ 7時間30分 × 100 → 約67%
不眠症の方は、ここが50〜70%台になっていることが多くあります。
このうち「実際に眠れた時間の平均」が、手順3で決める「ベッドにいてよい時間」の出発点になります。睡眠効率のほうは、手順3で1週間ごとに時間を調整するときの目安に使います。
手順3で使う起床時刻・就床時刻の計算は、睡眠スケジュール計算ツールで自動化できます。手計算が面倒な方はお使いください。
手順2|刺激統制法
不眠が長く続くと、脳がベッドを「眠る場所」ではなく「眠れずに悶々とする場所」として覚えてしまいます。あれほど眠かったのに布団に入ったとたん目が冴える、という経験があるなら、それがまさにこの状態です。
刺激統制法は、ベッドと眠気の結びつきを作り直す方法です。1972年に Bootzin が提唱した方法で[6]、米国睡眠医学会のガイドラインは単独でも有効な治療として推奨しています[3]。やることは次の6つだけです。
- 毎朝、同じ時刻に起きる。前の晩どれだけ眠れなくても変えません。休日も同じです
- 眠気が来てから床に就く。「何時になったから」ではなく、眠気が来たかどうかで決めます(手順3で「これより前には床に就かない時刻」を決めますが、その時刻になっても眠くなければ、まだ入りません)
- ベッドは眠るためだけに使う。スマートフォン、テレビ、読書、考えごと、仕事はベッドの外で
- 眠れずにつらいと感じたらベッドから出る。時計を見ずに体感で構いません
- 別の場所で静かに過ごし、眠気が来るのを待つ。明るすぎない照明で、退屈な本を読むくらいがちょうどよいです
- 眠気が来たらベッドに戻る。また眠れなければ、4に戻って繰り返します
昼寝は、この期間はできれば控えます。どうしても必要なときは午後3時までに20分以内にしてください。
これは失敗ではなく、想定内の経過です。臥床時間制限法を始めた患者さんを調べた研究では、94%が「強い眠気」を、全員が「疲労感」を経験したと報告しています[7]。ベッドで眠れないまま過ごす時間を減らすことが目的なので、いったん総睡眠時間が減るのは自然なことです。変化は1〜2週目以降に徐々に出てきますので、ここで元に戻さずに続けてください。
眠れないまま朝を迎えてしまった日の過ごし方は、眠れないまま朝になった時にやることは?にまとめています。今夜すぐ何かしたいという方は、眠れないときの対処法から読み始めてください。
手順3|臥床時間制限法── ベッドにいる時間を短くする
「臥床(がしょう)」とは、ベッドや布団に横になっていることです。つまり「ベッドにいる時間を、実際に眠れている時間に合わせて短くする」方法です。医療機関や書籍では「睡眠制限法」と呼ばれることもありますが、同じものです。
眠れない夜が続くと、少しでも休もうとしてベッドにいる時間が長くなります。しかし、眠気は起きている時間の長さでたまるものなので、ベッドで過ごす時間が長いほど眠りは薄く切れぎれになります。あえて短くすると、逆に眠りが濃くなります。1987年に Spielman らが報告した方法で[8]、現在も CBT-I の中心的な要素とされています[4]。
やり方
- 睡眠日誌から出した「実際に眠れた時間の平均+30分」を、ベッドにいてよい時間の出発点にします
- ただしご自身だけで進める場合は、6時間より短くしないでください。眠れた時間の平均が4時間半でも、6時間からで構いません。厚生労働省の睡眠ガイドは、高齢者向けの推奨のなかで、自分で床にいる時間を短くするときの限度を6時間としています[9]。年齢にかかわらず、ご自身だけで進めるときの目安として使ってください(医師や専門家が経過を見ながら行う場合は、5時間まで下げることがあります)
- 起床時刻を先に固定します。仕事や家事から動かせない時刻を選んでください
- 起床時刻から、1で決めた時間だけさかのぼった時刻を「これより前には床に就かない時刻」とします。たとえば起床6時30分・ベッドにいてよい時間6時間30分なら、就床は0時00分以降になります
- 1週間続けて、睡眠効率(手順1の計算)を出します。そして次のように調整します
- 85%以上なら、ベッドにいてよい時間を15分増やします(順調に上がり続けるなら30分まで)
- 80%未満なら、15分減らします。ただし、どこまで減らしても6時間より短くはしません
- 80%以上85%未満なら、そのまま次の1週間へ
日中に困らない睡眠時間に落ち着くまで、週単位でこの調整を続けます。
増やすときも減らすときも、起床時刻は動かさず、床に就く時刻のほうを動かします。たとえば起床6時30分・就床0時00分の方が15分増やすなら、就床を23時45分にします。
週ごとに動かすのがコツです。1日の結果で増やしたり減らしたりすると、うまくいきません。また、この間も手順2は続けてください。床に就いてよい時刻になっても、眠気が来ていなければまだ入りません。
ベッドにいてよい時間が下限の6時間に達してもなお、そこから3週間続けて睡眠効率が上がらないときは、自己流で下げ続けず医師にご相談ください(記事全体の目安である4〜8週間を待つ必要はありません)。専門家の管理のもとであれば、もう少し踏み込んだ調整ができます。
臥床時間制限法は、はじめのうち、日中の眠気が強くなることがあります。次に当てはまる方は、必ず医師に相談してから始めてください。
- 運転や、機械の操作など、眠気が事故につながる仕事をしている
- てんかんがある、または過去に発作を起こしたことがある
- 双極性障害(躁うつ病)と診断されている
- 日中の強い眠気がすでにある(睡眠時無呼吸などの可能性があります)
- 65歳以上で、夜中にトイレへ起きるなど、転倒が心配である
- 睡眠中に歩き回る・大声を出すなどを指摘されたことがある
- 妊娠中である
手順4|認知再構成(眠りについての考えを見直す)
眠れない夜に頭のなかを走っている考えが、次の夜の不眠を作っていることがあります。私たちの研究では、この「考えの見直し」が、臥床時間制限法・刺激統制法などと並んでCBT-I の重要な要素であることが示唆されました[4]。
よくある考えと、その点検の例
たとえば、次のような考えを点検していきます。
| よくある考え | 点検してみると |
|---|---|
| 8時間眠らないと体を壊す | 必要な睡眠時間には大きな個人差があり、「何時間なら安全」という共通の線引きはありません。判断の基準は時間の数字ではなく、日中に困っているかどうかです |
| 今夜眠れなければ、明日は何もできない | 眠れなかった翌日もそれなりに過ごせていた日が、日誌を見返すとたいてい見つかります |
| 睡眠薬が不眠症治療に必須だ | 不眠の認知行動療法のほうが睡眠薬よりも効果が高く、長続きすることが示されています |
| 早く眠らなければ | 眠りは頑張って起こすものではなく、条件が整えば起きるものです。「眠ろうとしない」ほうが早く眠れます |
やらなくてよいこと、逆効果になりうること
睡眠衛生の指導だけでは足りません
「カフェインを控える」「寝る前のスマートフォンをやめる」「寝室を暗くする」といった生活習慣のアドバイスは、睡眠衛生と呼ばれます。間違ってはいませんが、これだけで慢性不眠症が治るという根拠はありません。
先ほどの241件の解析でも、睡眠衛生の指導は CBT-I になくてはならないものではありませんでした[4]。米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインも、睡眠衛生を単独の治療としては使わないことを、条件付きの推奨として提案しています[3]。
やってはいけないという意味ではありません。「これだけやっていれば治るはず」と思って手順2〜4に進まないことが問題なのです。詳しくは睡眠衛生はなぜ非推奨かに書きました。
リラクゼーションは優先度が高くありません
深呼吸や、体の力を順番に抜いていく方法(筋弛緩法)などのリラクゼーションは、単独の治療法としては選択肢のひとつに挙げられています[3]。ただし私たちの解析では、手順2〜4を行っている方がさらにリラクゼーションを足しても、それ以上よくなるという結果は出ず、むしろ逆効果になる可能性が示されました[4](ただし、はっきり害があると確かめられたわけではありません)。
理由として考えられるのは、「リラックスできたか」を気にすること自体が、眠ろうとする努力になってしまう点です。限られた時間と気力は、手順2〜4に使うほうが確実です。この論点は不眠にリラクゼーションはなぜ推奨されないかで詳しく扱っています。
寝酒はやめてください
アルコールは寝つきを早くしますが、後半の眠りを浅くし、夜中に目が覚めやすくします[10]。続けると同じ量では効かなくなり、量が増えていきます[11]。寝酒と睡眠の関係にまとめました。
睡眠薬を飲んでいる方へ
すでに睡眠薬を飲んでいる方も、CBT-I を並行して始められます。むしろ、薬を減らしたい方こそ先に CBT-I を始めるほうが安全です。
ただし、自己判断で急にやめないでください。種類や量によっては、急な中断で不眠が一時的に強く悪化したり、不安・震え・発汗が出たりします。まれに、けいれん発作などの重い症状が起こることもあります。減らすときは必ず処方している医師に相談し、少しずつ進めてください。計画的な漸減にCBT-Iを組み合わせた臨床試験では、漸減のみの群で断薬できたのが48%だったのに対し、CBT-Iを併用した群では85%が断薬できています[12]。
いま飲んでいる薬をこのまま続けてよいか迷っている方は、睡眠薬は飲み続けて大丈夫?(種類ごとの依存リスクと長期使用の考え方)で、オレキシン受容体拮抗薬・非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬・ベンゾジアゼピン系それぞれの評価を整理しています。薬に頼らない方向へ進みたい方は、睡眠薬に頼らずに不眠を治す方法をご覧ください。
受診を考えたほうがよいとき
ここまでの方法は、多くの方がご自身で始められます。ただし、次に当てはまるときは、自分で対処するより先に医療機関で相談することをお勧めします。
- 大きないびきや、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された
- 脚がむずむずして寝ていられない
- 気分の落ち込みが2週間以上続いている
- 睡眠薬を減らしたい、やめたい
- 4〜8週間続けても、まったく変化がない
受診先は、精神科・心療内科のほか、睡眠を専門に診ている医療機関でもよいでしょう。睡眠日誌を持っていくと話が早く進みます。睡眠薬を希望されない場合はあらかじめ伝えておいてください。
CBT-I をどこで受けられるか
まずおすすめしたいのは、近くで CBT-I を受けられるところを探すことです。専門家が対面で行う形がいちばん効果的であることは、研究でも示されています[4]。
正直にお伝えすると、日本では CBT-I を専門的に提供している医療機関はまだ多くありません。(欧米でも多くはなく、初診まで半年以上待つというのもざらなのですが)
それでも、2026年6月からは条件を満たせば保険診療で CBT-I を受けられるようになりました。保険診療・保険適用の治療用アプリ・自費のクリニック・オンラインプログラム・書籍という5つの選択肢について、対象になる方・費用・回数まで具体的に比べたものが不眠の認知行動療法(CBT-I)はどこで受けられる? 5つの選択肢を比較です。
近くに無いとき、待てないとき
- 自分で進める——このページの手順1〜4は、そのために書きました。書籍も使えます
- オンラインで専門家の支援を受ける——うららか相談室との共同開発プログラムの紹介記事にまとめています。※ 著者がうららか相談室と共同開発した有料プログラムです。
費用について不安がある方は、「CBT-I は20万かかる」は妥当かもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 効果が出るまでどのくらいかかりますか
4〜8週間が目安です[3][2]。始めたばかりの頃はむしろ眠気が強くなることがありますが、それは想定内の経過で[7]、変化は1〜2週目以降に徐々に出てくることが多いです。
Q. ベッドにいる時間を6時間まで減らすのは、短すぎませんか
臥床時間制限法で設定する時間は「今の状態に合わせた出発点」であって、目標ではありません。睡眠効率が上がるにつれて、週ごとに増やしていきます。日常の目安としては、厚生労働省の睡眠ガイドは成人で6時間以上を目安としており[9]、米国の学会の共同声明も成人で7時間以上をすすめています[13]。治療のあいだ一時的にベッドにいる時間を短くするのは、眠りを濃くするための手順であって、睡眠不足を勧めているわけではありません。
Q. 高齢なので、若い頃より眠れないのは仕方ないのでは
加齢とともに睡眠が浅く短くなるのは自然な変化です。日中に困っていなければ、それは不眠症ではありません。困っている場合は、年齢にかかわらず CBT-I の対象になります[2]。
Q. 途中で1日できなかったら、最初からやり直しですか
やり直す必要はありません。翌朝、決めた時刻に起きるところから再開してください。起床時刻を固定することが、いちばん効きます。
Q. サプリメントや市販の睡眠改善薬はどうですか
慢性不眠症の治療として、これらを勧める根拠は十分ではありません。欧州のガイドラインも、抗ヒスタミン薬や植物由来の製品を推奨していません[2]。
参考文献
- Qaseem A, Kansagara D, Forciea MA, Cooke M, Denberg TD. Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2016;165(2):125-133. doi:10.7326/M15-2175
- Riemann D, Espie CA, Altena E, et al. The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023. J Sleep Res. 2023;32(6):e14035. doi:10.1111/jsr.14035
- Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262. doi:10.5664/jcsm.8986
- Furukawa Y, Sakata M, Yamamoto R, et al. Components and Delivery Formats of Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia in Adults: A Systematic Review and Component Network Meta-Analysis. JAMA Psychiatry. 2024;81(4):357-365. doi:10.1001/jamapsychiatry.2023.5060
- Carney CE, Buysse DJ, Ancoli-Israel S, et al. The consensus sleep diary: standardizing prospective sleep self-monitoring. Sleep. 2012;35(2):287-302. doi:10.5665/sleep.1642
- Bootzin RR. Stimulus control treatment for insomnia. Proceedings of the American Psychological Association. 1972;7:395-396. PDF
- Kyle SD, Morgan K, Spiegelhalder K, Espie CA. No pain, no gain: an exploratory within-subjects mixed-methods evaluation of the patient experience of sleep restriction therapy (SRT) for insomnia. Sleep Med. 2011;12(8):735-747. doi:10.1016/j.sleep.2011.03.016
- Spielman AJ, Saskin P, Thorpy MJ. Treatment of chronic insomnia by restriction of time in bed. Sleep. 1987;10(1):45-56. PMID: 3563247
- 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.令和6年2月.https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf(2026年7月31日参照)
- Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013;37(4):539-549. doi:10.1111/acer.12006
- Roehrs T, Roth T. Insomnia as a path to alcoholism: tolerance development and dose escalation. Sleep. 2018;41(8):zsy091. doi:10.1093/sleep/zsy091
- Morin CM, Bastien C, Guay B, Radouco-Thomas M, Leblanc J, Vallières A. Randomized clinical trial of supervised tapering and cognitive behavior therapy to facilitate benzodiazepine discontinuation in older adults with chronic insomnia. Am J Psychiatry. 2004;161(2):332-342. doi:10.1176/appi.ajp.161.2.332
- Watson NF, Badr MS, Belenky G, et al. Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. Sleep. 2015;38(6):843-844. doi:10.5665/sleep.4716
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。ご自身の状態について判断が必要なときは、医療機関にご相談ください。

名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
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