メタアナリシスに興味を持ってくれた方に、研究を手伝っていただくことが増えました。まずはスクリーニングの手伝いをしていただくことが多いですが、それだけだと作業してもらうだけになってしまって申し訳なく思います。本当に大事でもっとも難しく楽しいところは、問いを立てるところだと思っています。問いの立て方を説明する機会が何度かあったので、これを機会にまとめておきます。
イシューからはじめよ
まず心構えとして、取り組む価値のある課題を見極めることが大事です。あまり意味のない課題に取り組むくらいであれば何もしないほうがマシです。本来取り組むべきことに取り組む時間が削がれてしまいます。研究中に絶対出てくる大変な瞬間に、自分でやっている意義がわからなくなると、途中で頓挫します。逆に、大変なプロジェクトでも、取り組む意義が大きいものであれば、手助けしてくれる人が現れます。
未読でしたら、安宅氏の『イシューからはじめよ』もぜひ。
イシュー度: 日々の臨床からRQを見つける
良い臨床研究は、日々の実直な臨床から生まれます。RQ (research question) にならなくても、調べる過程でより良い臨床家になれたら、それは意義深いことではないでしょうか。イシュー度の高い疑問として、下記の2点を確認しましょう。
臨床判断を変えうる大事な問いである
日々臨床をしていると疑問に思うことがたくさん出てくると思います。その中で特に、答えがわかったら、臨床判断が変わるような問いを集めましょう。答えが出ても、臨床判断が変わらないのであれば、あまり良い問いではありません。
- 初期研修医が疑問に思うこと
- とりあえずこんなもんだとされていること
- 人によって言っていることが異なること
などがヒントになるかもしれません。市中肺炎の抗菌薬治療期間を調べた論文は、私が初期研修の時に抱いた疑問をテーマにしたものです。抗うつ薬増強療法としてのアリピプラゾールの至適用量を求めた論文は、ガイドライン勉強会で上級医が高用量が良いと言っており、私の知っていた臨床試験結果と矛盾していると感じ、調べてみたものです。
十分なエビデンスがない
既に質量ともに十分なエビデンスがある場合は、そのエビデンスを活用すれば良く、新たな研究は不要です。(もっとも、エビデンスは白黒はっきりしたものではなく、グラデーションですが。。。)
本来であればしっかり内容を吟味するのが望ましいですが、ざっくりとした目安でいうと、5年以内にトップジャーナルまたはCochrane Reviewでメタアナリシスが出ていたら、よほどそれ以上のものができる確信がなければ研究として着手しないほうが無難でしょう。なお、ガイドラインはそもそもの質が低いこともあり、要注意です。
解の質を磨きあげる
エビデンスピラミッドの頂点とされるメタアナリシスですが、実際は玉石混交です。質の低い観察研究をまとめて「メタアナリシス」と称する論文もあります。質の高い研究をしましょう。(質の低い研究であれば、やらないほうがマシです。)
より質の高い解決策がある
先行研究よりも質の高い研究ができる余地があるか検討しましょう。臨床的に意義の大きなか疑問であれば、何かしらのメタアナリシスがあります。見つからない場合は、チャンスと思うよりも、臨床疑問が些末なものである可能性や、先行研究が上手に探せていない可能性を検討すべきです。
- 組入対象のRCTが20%以上増えた
- より良い解析手法がある
- 用量反応メタアナリシス
- ネットワークメタアナリシス
- 要素ネットワークメタアナリシス
- 個別患者データメタアナリシス
- より適切なエビデンスの質の評価ができる
- よりよい結果の提示方法がある
などで十分付加価値が出せそうであれば、勝負ができるかもしれません。ただし、ほんの少しの差であれば、わざわざ手間を割いて研究するほどの意義は少ないかもしれません。(そういう意味でも、中途半端な研究はちゃんとした研究の邪魔になるので、やらないほうがマシです。)
自分のリソースで解決できる
いくら質の高い解決策が思いついたとしても(例:既存の数十のRCTの個別患者データメタアナリシスなど)、自分のリソースでできなければ絵に描いた餅です。系統的レビューとメタアナリシスは、リソースが少なくてもできるとされますが、スクリーニングの手間暇は大きく、規模が大きいメタアナリシスは数年かかります。自分でできることを増やしつつ、経験のある方に手伝ってもらうのも大事です。SR&MAはチーム戦です。すべてを自分だけでやろうとせず、チームを作りながら取り組みましょう。
私の最初のメタアナリシスは、対象となるRCTが10件程度だろうという目星がついたので着手しました。CBT-Iの要素ネットワークメタアナリシスは100件は超えるだろうと思っており、すぐには手を付けられませんでした。幸い、多くの方に協力いただいたおかげで完遂することができました。(始めた時には、まさか241件見つかるとは思ってもいませんでしたが。。。)
避けた方が良いSR&MAを避ける
以下はあまりおすすめしません。
初心者は、あまりに大規模になりそうなものは避けましょう。システマティックレビューの段階で心が折れます。とはいえ、包含RCTがなさそうなものも避けたいところです。(パラシュート論文みたいに上手に料理できたら別ですが。)薬物療法と比較して心理療法は定義がファジーになりがちで難易度が上がるので注意しましょう。
私もSR&MAのアイデアを書き溜めていますが、10本中1−2本ものになれば良い方です。いつか時間があったら手を付けようと思っていたものは1−2年以内に類似の研究が出てしまったりします。(それが中途半端な質のものだと残念な気持ちになります。)
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
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