睡眠薬は飲み続けて大丈夫?【不眠症を専門とする精神科医が正直に答えます】
「眠れなくて睡眠薬を処方してもらったけど、ずっと飲み続けて大丈夫なの?」
外来でよく聞かれる質問です。正直に答えると——ケース・バイ・ケースです。
不眠症を専門とする精神科医として、睡眠薬の種類ごとのリスクと、薬との上手な付き合い方をお伝えします。「薬をやめたい」と思っている方にも参考になると思います。
目次
まず知っておきたい:睡眠薬の「世界の常識」
世界の不眠症治療ガイドラインでは、睡眠薬よりも不眠の認知行動療法(CBT-I)が第一選択とされています。欧州不眠症ガイドライン2023[1]、米国睡眠医学会[2]、米国内科学会[3]のいずれも同じ立場です。米国睡眠医学会の薬物治療ガイドラインも、個々の睡眠薬への推奨をすべて「弱い推奨」にとどめており、薬物療法はCBT-Iが使えない場合や効果が不十分な場合の選択肢として位置づけられています[4]。
それでも睡眠薬が広く使われているのは現実であり、「使い続けていいのか」「いつやめるべきか」という疑問は当然です。どのくらいの期間なら使ってよいかについては専門家の間でも議論が続いていて、評価は薬の種類によって異なります[5]。以下で種類ごとに解説します。
睡眠薬の種類と「長期使用」の考え方
① オレキシン受容体拮抗薬(現時点で使いやすい選択肢)
代表薬:レンボレキサント(デエビゴ®)、スボレキサント(ベルソムラ®)、ダリドレキサント(クービビック®)
オレキシンは覚醒を保つ働きをする脳内物質です。この働きをブロックすることで眠りに入りやすくする薬で、ベンゾジアゼピン系のような依存性・筋弛緩作用が問題になりにくいとされています。
長期使用について:レンボレキサント(デエビゴ®)は、SUNRISE-2 という同一の臨床試験の6カ月時点[6]と12カ月時点[7]の報告で効果が続くことが確認されている、数少ない睡眠薬の一つです(プラセボと比較しているのは最初の6カ月までで、後半の6カ月は全員が実薬を続けた期間です)。ただし、170試験・36種類の睡眠薬を対象にしたシステマティックレビューとネットワークメタアナリシスでは、有効性は良好である一方、長期の安全性データはまだ結論を出せる段階にないと評価されています[8]。
知っておきたい副作用
悪夢や「金縛り(睡眠麻痺)」が起きることがあります。気になる場合は医師に相談してください。重度の肝機能障害がある方には使用できません。
② 非ベンゾジアゼピン系(z-drug)
代表薬:エスゾピクロン(ルネスタ®)、ゾルピデム(マイスリー®)、ゾピクロン(アモバン®)
かつてベンゾジアゼピン系より安全として広まりましたが、欧州医薬品庁の副作用データベースを解析した研究では、約6,200人の患者について、誤用・乱用・依存・離脱に関する報告が3万3千件あまり集まっています(1人の患者から複数の報告が上がるため、件数は患者数より大きくなります。自発的な報告の集計なので処方量の影響も受けますが、依存が起こらない薬ではないことを示しています)[9]。「ベンゾジアゼピン系より安全」と言い切れるだけの根拠はない、というのが現在の見方です。
長期使用について:エスゾピクロン(ルネスタ®)は6カ月間の臨床試験で効果が続くことが示されています[10]。ただし前述のネットワークメタアナリシスでは、有効性は高い一方で副作用も相応に多いと指摘されています[8]。ゾルピデム(マイスリー®)・ゾピクロン(アモバン®)は、長期投与での有効性がエスゾピクロンほど確立しておらず[8]、急激な中断による離脱症状(不眠の一時的な悪化、不安など)にも注意が必要です。
また、この系統の薬には寝ている間に食べる・歩き回る・車を運転するなどの異常行動(複雑睡眠行動)という副作用があります。米国 FDA は死亡・重傷に至った66例の報告を受けて、エスゾピクロン・ザレプロン・ゾルピデムの3剤に強い警告を追加しました[11](このうちザレプロンは日本では発売されていません)。副作用報告の件数ではゾルピデムが突出しています[9]。「寝ている間に何かしている気がする」という場合は、すぐに医師に相談してください。
高齢の方はとくに注意が必要です。米国老年医学会のビアーズ基準(2023年版)は、ベンゾジアゼピン系だけでなく、エスゾピクロン・ザレプロン・ゾルピデムについても、せん妄・転倒・骨折、救急受診や入院の増加、交通事故のリスクを理由に、高齢者では使用を避けるよう勧告しています[12]。ゾピクロン(アモバン®)が挙がっていないのは米国で発売されていないためで、安全性の評価が違うからではありません。
ちなみに、エスゾピクロンで一番多い副作用はにがみです。口をゆすいでも改善するものではないのが不思議です。
③ メラトニン受容体作動薬
代表薬:ラメルテオン(ロゼレム®)
依存性・副作用が少なく、安全性の面では優れた薬です。ただし効果の評価は研究によって分かれています。メラトニンとラメルテオンを扱ったメタアナリシスでは、ラメルテオンで寝つきまでの時間が平均9分ほど短縮したと報告されている一方[13]、170試験・36種類の睡眠薬を対象にしたネットワークメタアナリシスでは、ラメルテオンは他の睡眠薬と比べて明確な有益性を示せませんでした[8]。依存性の低さを優先したい高齢の方や、強い薬は使いたくないという方に処方されることがあります。
④ ベンゾジアゼピン系(古いタイプ)
代表薬:エチゾラム(デパス®)、トリアゾラム(ハルシオン®)、ニトラゼパム(ネルボン®)など
短期的な効果は比較的強いですが、現在の医学的立場では、長期の新規処方は原則避けるべき薬です。
- 依存性・耐性が形成されやすい[1]
- 高齢者では認知機能や運動機能への副作用が増え、転倒につながりうる(60歳以上を対象に睡眠薬全般を検討したメタアナリシスでは、睡眠改善の効果は小さい一方、認知面の副作用が約4.8倍に増えていた)[14]
- 米国老年医学会のビアーズ基準は、せん妄・転倒・骨折のリスクから、高齢者への使用を避けるよう勧告している[12]
- 欧州不眠症ガイドラインは、使用を4週間以内の短期にとどめるよう推奨している[1]
注意:ただし、急にやめないでください
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系を飲んでいる方が自己判断で急にやめると危険です。離脱症状(強い不眠・不安・震えなど)が出ることがあります。必ず医師と相談して、少しずつ減らす方法(漸減法)をとってください。計画的な漸減であれば、高齢の方でも約半数が薬をやめられたという臨床試験があります[15]。
種類別まとめ:長期使用の安全性
| 種類 | 依存リスク | 長期有効性 | 新規処方 |
|---|---|---|---|
| オレキシン受容体拮抗薬 | 低い | あり(レンボレキサント) | 選択肢になる |
| 非ベンゾジアゼピン系 | 中程度 | 一部あり(エスゾピクロン) | 慎重に(高齢者では避ける) |
| メラトニン受容体作動薬 | ほぼなし | 評価が分かれる | 選択肢になる |
| ベンゾジアゼピン系 | 高い | 長期データなし | 原則避ける |
「薬をやめたい」と思ったら
睡眠薬を「減らしたい」「やめたい」という気持ちは自然なことです。ただ、いくつか注意点があります。
- 急激な中断は避ける——特にベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系は、急にやめると不眠が一時的に悪化したり、不安・震えなどの離脱症状が出ることがあります
- 必ず医師に相談して——「やめたい」「減らしたい」と担当医に伝えてください。一人で抱え込まないことが大切です
- 根本的な治療と並行して——薬を減らす際は、薬によらない治療法(後述)を並行して取り入れると成功しやすくなります。漸減だけを行った群で断薬できたのが48%だったのに対し、漸減にCBT-Iを加えた群では85%が断薬できたという臨床試験があります[15]
薬よりも根本的な解決法がある
睡眠薬が「症状を抑える」のに対して、不眠の根本的な原因に働きかける治療法があります。
世界のガイドラインが第一選択としているのは、「臥床時間を調整する方法(睡眠制限法)」「布団と眠りの結びつきを修正する方法(刺激制御法)」「眠りについての考え方を見直す方法(認知再構成)」などを組み合わせた不眠の認知行動療法(CBT-I)です[1][16]。CBT-Iは治療が終わったあとも効果が残りやすいのが特徴です。メタアナリシスでは、効果の大きさは時間とともに小さくなるものの、12カ月後まで改善が保たれることが示されています[17]。睡眠薬との併用を検討した試験では、CBT-Iに睡眠薬を併用した群のほうが維持期・追跡期の寛解率は高かった(56%対43%)一方、併用から入った人のなかでは維持期に睡眠薬をやめた群のほうが1年後の改善率が高い(68%対42%)という結果が報告されています[18]。
CBT-I で実際に何をするのかは、不眠症の治し方 完全ガイドで睡眠日誌・刺激統制法・臥床時間制限法・認知再構成の4手順として説明しています。受けられる場所を探している方は、CBT-I はどこで受けられるかで保険診療・治療用アプリを含む5つの選択肢を比較しました。
まとめ
- 睡眠薬の「長期使用の安全性」は種類によって大きく異なる
- 睡眠薬を使うなら、現時点で使いやすいのはオレキシン受容体拮抗薬(依存性が少なく、長期有効性が確認されているものもある)
- ベンゾジアゼピン系は依存や高齢者での副作用のリスクがあり、長期の新規処方は推奨されない
- 「やめたい」と思ったら、自己判断での中断は避け、必ず医師と相談して少しずつ減らす
- 根本的には、不眠の認知行動療法(CBT-I)のほうが治療終了後も効果が残りやすい
不眠症治療には睡眠薬よりも不眠の認知行動療法がおすすめ!とはいえ、睡眠薬で眠れているときは無理にやめようとしなくてよいこともあります。主治医の先生と相談してみてください。
参考文献
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この記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。薬の増減・中止は必ず処方医とご相談ください。

名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
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