「リラクゼーションはiOR, 0.81 (95% CI, 0.64-1.02) と、統計学的有意差がつかなかったのになぜ有害かもしれないと言及したのか」との質問を、不眠の認知行動療法CBT-Iの有効な要素を探った私達の論文に関していただきました。
私達のアプローチは、推定された効果の大きさと精度を重視して連続的に評価することを重視し、恣意的な閾値で有意差の有無で分類することを意識的に避けています。これは近年の米国統計学会のp値に関する声明などに準拠しています。
Wasserstein RL, Lazar NA.The ASA statement on p-values: context,process, and purpose. Am Stat. 2016;70:129-133. doi:10.1080/00031305.2016.11541086.
Amrhein V, Greenland S, McShane B. Scientists rise up against statistical significance, Nature, https://www.nature.com/articles/d41586-019-00857-9
Lash TL, VanderWeele TJ, Haneuse S, et al. Modern Epidemiology.4th ed. Lippincott Williams & Wilkins; 2021. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M23-2430
95% CIが0.64-1.02ということは、効果を大きめに評価してもiOR 1.02程度と臨床的な意義はないと考えられます。よく見積もっても効果がないものにリソースを割くことはやはりよくないものと考えられます。
また、パニックに対するCBTの要素ネットワークメタアナリシスや、うつ病のCBTの要素ネットワークメタアナリシスでもリラクゼーションは有害そうであるという結果でした。
既に患者さんにお気に入りのリラクゼーションがあり、効果を実感しているのであればもちろんわざわざやめさせる必要はありません。ただ、これから新しく不眠症に関するプログラムを提供するのであれば、省略して良いのではないかと思います。
名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシス(用量反応メタアナリシス、要素ネットワークメタアナリシスなど)を中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。
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