『シフトワーカーのための健康的な睡眠習慣: デルファイ法によるコンセンサス睡眠習慣ガイドライン』日本語訳
この『シフトワーカーのための健康的な睡眠習慣: デルファイ法によるコンセンサス睡眠習慣ガイドライン』日本語訳は、日本の行動睡眠医学研究に携わる有志が原著の一部を日本語に翻訳したもので、翻訳の質や 正確さの責任は日本語版翻訳チームにあります。なお、原著論文はCC-BY 4.0での公開であり、この日本語訳もCC-BY 4.0に準じます 。
なお、日本で入手できない薬物に関する記載を省略したり、部屋の温度の設定を日本の夏でも現実的な温度に変更するなどの微修正を翻訳者判断で加えました。微修正を加えたところには脚注を加えてあります。
引用にあたっては下記の通りお願いします。
原著: Shriane AE, Rigney G, Ferguson SA, Bin YS, Vincent GE. Healthy sleep practices for shift workers: consensus sleep hygiene guidelines using a Delphi methodology. Sleep. 2023;46(12):zsad182. doi:10.1093/sleep/zsad182. 日本語訳(一部改変): 古川由己. 2025. URL: https://yukifurukawa.jp/healthy-sleep-practices-for-shift-workers-2023/
目次
シフトワーカーのための健康的な睡眠習慣
序文
シフトワーカーにとって、十分で質の良い睡眠をとることは難しく、それが健康、幸福感、仕事のパフォーマンス、安全性に影響を及ぼすことがあります。以下のガイドラインは、シフトワーカーが健康的な睡眠習慣を実践し、勤務期間中の睡眠の質を改善するための助言を目的としています。これらのガイドラインは科学的根拠に基づいており、多くの人に有効な戦略を提供します。ただし、すべての人に当てはまるわけではありません。自分の勤務スケジュール、生活習慣、家庭の事情などに合わせて参考にしてください。
睡眠やシフトワークの影響について懸念や疑問がある場合には、医療専門職に相談することが重要です。まずはかかりつけ医(一般医)に相談するのがよいでしょう。必要に応じて、睡眠専門医や睡眠心理士が個別化された治療を提供できます。
ガイドライン
1. 睡眠を最優先にする
シフトワーカーにとって十分な睡眠をとることは難しい場合があります。できる限り、社会的な活動や家事を調整し、友人や家族、近隣の人に睡眠スケジュールを伝えるなどして、睡眠を優先してください。
2. 1日24時間あたり7〜9時間の睡眠を目標にする
必要な睡眠時間には個人差がありますが、研究によれば、健康な成人の多くに必要なのは7〜9時間です。これはひと続きの睡眠でも、主睡眠に短い補助睡眠を加えてもかまいません。大切なのは「就床時間」ではなく「実際に眠った時間」であることを意識しましょう。
3. 睡眠スケジュールを作る
勤務シフトや生活習慣に基づいて睡眠スケジュールを立てましょう。各シフトごとにできるだけ一貫した就寝時間を維持することが推奨されます(例:日勤用の就寝時間A、午後勤務用の就寝時間B)。24時間あたり合計7〜9時間の睡眠が確保できるように調整してください。
4. 就寝前のルーティンを作る
リラックスできる活動を見つけ、寝る前に毎回同じように行いましょう。できれば暗く静かな環境で行うのが理想です。入眠困難がある人に特に有効です。
5. 休日前への移行を計画する
夜勤や遅い勤務の後に連休へ入る場合、朝に短時間眠ってから、通常より早めに就寝する方法が有効なことがあります。朝に日光を浴びることで、体内時計が日中のリズムに再調整されやすくなります。
6. 昼寝を有効に活用する
短い昼寝(15〜20分)は覚醒度と作業効率を高め、長めの昼寝(90分)は睡眠負債を軽減します。15分未満では効果が乏しく、20分を超えると睡眠慣性(ガイドライン7参照)が強く出やすくなります。主睡眠の4〜6時間前には長い昼寝を避けましょう。静かで暗く涼しい環境が理想です。
7. 睡眠慣性を考慮する
起床後、シフトワーカーは眠気やぼんやり感(睡眠慣性)を感じ、覚醒度や作業効率が低下します。通常15〜30分続きますが、最大2時間持続することもあります。この間は運転や機械操作などの高リスク作業は避けてください。
8. 快適な睡眠環境を整える
睡眠環境は以下を目指しましょう:
- 温度:快適に涼しい温度(夏季25−28℃1)で換気を十分に保つ
- 暗さ:可能な限り光を遮断(遮光カーテンやアイマスク)
- 静けさ:可能な限り騒音を遮断(窓やドアを閉める、耳栓を使う、電子機器をオフ)。ホワイトノイズが役立つ人もいます。
9. ベッドは睡眠と性行為のみに使う
可能であればベッドは睡眠と性行為のためだけに使いましょう。ゲームやPC作業など精神的に刺激の強い活動は避け、同じベッドを他人共有すること(ペットも含む)が睡眠を妨げうることにも注意してください。
10. 光の曝露を考慮する
就寝前の強い光曝露は睡眠に影響します。夜勤後に帰宅する際はサングラスをかける、デバイスの画面輝度を下げるなどの工夫をしましょう。
11. カフェイン摂取に注意する
カフェインはシフト前や勤務中の覚醒度・パフォーマンスを高めます。ただし作用は数時間持続し、個人差も大きいです。就寝時間に近い摂取は睡眠に悪影響を及ぼします。
12. ニコチン摂取に注意する
ニコチンは可能なら避けるべきですが、少なくとも就寝6時間前からは控えましょう。
13. アルコール摂取に注意する
寝酒としてのアルコールは避けてください。入眠を助けると感じる人もいますが、少量であっても就寝前の飲酒は睡眠の質を低下させます。
14. 薬物使用に注意する
薬は睡眠に影響を及ぼします。覚醒作用のある薬は就寝前には避けましょう。睡眠薬は通常、短期間または断続的な使用に限るべきです。薬の使用については必ず医療専門職に相談してください。2
15. 食事に注意する
夜勤中の食事はできるだけ控えめにし、必要な場合は軽めの小食を心がけましょう。空腹で就寝すると睡眠に悪影響があるため、消化に負担の少ない軽い食事を選んでください。
16. 水分摂取に注意する
十分な水分補給は重要ですが、就寝前に過剰に飲むと夜間の排尿で睡眠が中断される可能性があります。
17. 定期的な運動を行う
定期的な運動は健康全般に有益で、睡眠の質も改善します。シフトに合わせて取り入れましょう。最近の研究では、夜間の運動は多くの人にとって睡眠を妨げないことが示されています。ただし、就寝前にはリラックスの時間を設けることも大切です。
18. 睡眠問題への対応法を身につける
眠れないときはベッドを出て、暗く静かな環境でリラックスできることをしましょう。画面を見たり時計を確認したりするのは控え、眠気を感じたら再びベッドに戻りましょう。もし睡眠の問題が週3回以上、数週間続く場合には、医療専門職に相談してください。
- 訳注:原文では「16〜20℃」ですが、日本の夏においてクーラーで16-20℃にするというのは寒すぎるでしょう。 ↩︎
- 訳注:原文には「メラトニンのような自然由来物質はシフトワーカーによる睡眠障害に有用なことがあります。」とありましたが、2025年現在日本ではメラトニンは入手不能なため省略しました。なお、メラトニンが市販されている欧米でもその質が千差万別であることが問題視されています。海外からの輸入品の使用は推奨されません。 ↩︎

名古屋市立大学医学部卒業後、南生協病院での初期研修を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科、東京武蔵野病院で専攻研修。日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。臨床と並行してメタアナリシスを中心とした臨床研究を主導。筆頭著者として、JAMA Psychiatry, British Journal of Psychiatry, Schizophrenia Bulletin, Psychiatry and Clinical Neuroscienceなどのトップジャーナルに論文を発表。不眠の認知行動療法 (CBT-I) などの心理療法や、精神科疾患の薬物療法について、臨床で抱いた疑問に取り組んでいる。メディア報道・講演など。
免責事項:当ウェブサイトは所属団体の意見を代表するものではありません。管理人は、細心の注意を払って当ウェブサイトに情報を作成していますが、情報の正確性および完全性を保証するものではありません。当ウェブサイトの情報もしくはリンク先の情報を利用したことで直接・間接的に生じた損失に関し、管理人は一切責任を負いません。